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放射線はどのように人体に影響を及ぼすのか

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放射線はどのように人体に悪影響を及ぼすのか

1895 年、レントゲンが X 線を発見して以来、放射線は医学・薬学分野を中心に幅広く利用されてきました。しかしその一方で、放射線が人体にさまざまな有害作用をもたらすことが報告されてきました。放射線研究の初期には、研究者自身に起こる脱毛、炎症、ただれなどの皮膚障害、1945 年の広島、長崎への原子爆弾投下は、急性放射線障害、白血病、甲状腺がんなどの後発性の放射線障害を引き起こしました。
1986年のチェルノブイリ原発4号機事故では、事故直後から1987年にかけての緊急の事故処理に当たった作業者及びチェルノブイリ原発から30km圏内の居住者の計約60万人を対象とすると、原発事故によるがん死亡は約4000人、推定対象をヨーロッパ全体5.7億人に広げると約16,000人と推定されています。
1999 年の東海村におけるウラン加工工場で発生した臨界事故では2名の作業員が死亡しました。1名は多量の放射線(中性子線)を浴び、遺伝子が破壊され、新しい細胞が生成できなくなり白血球が減少して被爆から59日後に死亡しました。もう1名の作業員は放射線障害により徐々に容態が悪化、さらにMRSA感染による肺炎を併発し、事故から211日後、多臓器不全により死亡しました。

放射線の電離作用が人体被害の最大の原因

放射線の種類と電離作用
出典:広島大学「放射線対策基本情報ポータルサイト」

放射線は粒子の流れである粒子線と、エネルギーの流れである電磁波の二つに大きく分けることができます。電磁波とは通常、光とか電波と呼んでいるもので、波長や周波数によって分類されます(下図)。電磁波の中で波長が極めて短いエックス 線とガンマ線を放射線と言います。粒子線とエックス線やガンマ線の電磁波は物質をイオン化する能力、すなわち電離作用があります。電離作用とは図に示した通り、放射線が原子を周回する電子を弾き飛ばしたりして原子や分子をイオン化(正/負の電荷を持った状態)することです。この電離作用が人体被害の最大の原因です。

出典:東京工業大学 河合研究室

放射線の人体への影響過程

放射線の人体への影響は、放射線エネルギーが人体を構成するさまざまな分子に吸収されることによって引き起こされ、影響の度合は吸収される放射線量に依存します。
人体への影響は下記のように分類されます。

放射線の物理的影響(影響時間:10の-15乗秒〜10の-13乗秒)

放射線のエネルギーが生体分子の化学構造とは関係なく、遺伝子を構成する核酸やタンパク質などの生体高分子や水分子に放射線の物理的な影響が及び、これらの分子を電離したり、より高いエネルギーを持った状態に変化させます。人体の70~80%は水であり、放射線の水の電離作用は大きな影響を及ぼします。

放射線の化学的影響(影響時間:10の-12乗秒〜1 秒)

化学的な影響では、分子の電離などに引き続き、反応性が高いイオンや自由電子などを生成します。

放射線の生化学的影響(影響時間:数秒〜数分)

生化学的な影響では、イオンが周囲の分子と反応し、分子の構造異常や機能低下を招きます。その後、生体分子の損傷に修復が追いつかなければ、細胞の死や組織・臓器の不全から死に至ります。遺伝子の損傷は、がんの発生や奇形発生などの遺伝的障害に結びつくことが多いとされています。

後発性障害(影響時間:数か月後〜数十年後)

放射線被ばく後、人体に変化が現れるまでに長い潜伏期間を要し、数十年を経過して現れる障害もあります。

放射線によるDNA(遺伝子)の破壊

人体の各臓器や筋肉などは主にたんぱく質によってつくられており、組織や部位によってたんぱく質の形状は異なります。すべてのたんぱく質の形状に関する情報はDNA(遺伝子、下図)に記録されており、DNAは人体を構成するすべての細胞の核内に格納されています。たんぱく質をつくるとき、下図のDNAの塩基配列(A、T、C、Gの並び)が順番に3つずつ読み込まれます。3つの配列によって1種類のアミノ酸が決まり、塩基配列の順番にしたがってアミノ酸が次々と連結され、糸状に連なり、最後は分子結合などでくるくると丸まってできるのが人体を構成するたんぱく質です。
人体を構成するたんぱく質やDNAなどに対する放射線のおもな作用は分子の切断です。切断は放射線量に依存し、分子内や分子間に体積の縮小や分子間の結合力の低下などさまざまな影響を及ぼします。DNA に放射線が当たると、各所に反応性の高いイオンが生じ、DNAを構成している塩基の脱落やリン酸基の切断、塩基の水素結合の破壊、 塩基配列の切断などが起こります。
人体には各種の損傷修復機能があります。DNAもある程度の損傷であれば、時間をかけて正常に修復することができます。しかしたとえば放射線により DNAの二重らせんの2 本の鎖が切断した場合、遺伝子の修復は行われるもののエラーが起こりやすくなります。1999年の東海村の事故のように大量の放射線を浴びると、DNAがずたずたに破壊され、修復機能を失って細胞の死(アポトーシス)に至ります。
放射線による DNA の変化が遺伝子の突然変異として定着すると、機能性タンパク質の欠損や異常タンパク質の生成をもたらすほか、発がんの可能性を高めます。また生殖細胞に生じた場合には、遺伝的影響が起こる可能性があります。

出典:京都大学 http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/genomemap/ 

放射線による人体損傷

細胞の損傷

私たちの身体は細胞分裂によって新しい細胞が誕生し、古い細胞に置き換わることで、時々刻々とリニューアルされています。
細胞分裂期にある細胞が放射線を浴びると、分裂能力が阻害され、分裂の遅延や停止が発生します。分裂停止が継続するとそのまま細胞死に至ったり、分裂を再開しても数回の分裂で死に至ったりします。
成人の神経細胞や筋肉細胞の場合には,数十〜数百 Gy(グレイ:吸収放射線量)の線量で核が濃縮し、細胞膜が縮み、最終的には細胞死を迎えます。リンパ球や若い卵母細胞などの細胞では、比較的低線量(0.2〜0.5Gy)でも分裂能力を失って細胞死に至ります。

組織による放射線感受性の違い

 

放射線
感受性
組 織
高い リンパ組織,造血組織,生殖腺,腸上皮,
発育中の胎児,水晶体
やや高い 口腔粘膜,毛根ろ胞,膀胱上皮,食道上皮,
皮膚上皮,汗腺,唾液腺,毛細管上皮
中程度 脳,脊髄,肺,肝臓,胆嚢,腎臓,胸膜
やや低い 甲状腺,膵臓,関節,軟骨
低い 筋肉,神経組織,脂肪組織,結合組織

造血臓器

血液成分は骨髄でつくら、リンパ節、脾臓、胸腺も造血系に含まれます。これらの器官はいずれも放射線感受性が高く、骨髄中の細胞の感受性は赤血球系、白血球系、血小板系の順となります。致死線量の放射線に被爆した場合の治療としては健常な個体から採取した骨髄細胞(造血系幹細胞)を移植する方法などがあります

消化管

消化管の放射性感受性は十二指腸が最も高く、以下、小腸、食道、大腸、胃の順となります。放射線の大量照射を受けると腸壁などの細胞が障害を受け、上皮細胞の補給が停止し、体液の流失、下痢、外部からの細菌の侵入により死に至ることがあります。これを腸死または腸管死といいます。.

リンパ器官

脾臓、胸腺、リンパ節はリンパ器官とよばれ、放射線感受性はいずれも高く、被ばくにより顕著な縮小がみられ、免疫機能も低下します。

皮膚

放射線による皮膚障害は皮膚炎とがんです。皮膚炎には急性皮膚炎と慢性皮膚炎があります。急性皮膚炎は 1 回に大量の放射線被ばくを受けた場合に生じます。慢性皮膚炎は小線量を長時間にわたり被ばくしたときに生じますが、慢性皮膚炎が長期間継続すると皮膚がんの発生につながることが多いとされます。

生殖腺

細胞再生系組織の代表であり、男女生殖腺ともに放射線感受性は高くなっています。

照射線量
(Gy)
男性生殖器障害 照射線量
(Gy)
女性生殖器障害
0.1~ 3 短期間の一時的不妊 0.65~1.5 短期間の一時的不妊
4 ~5 数年( 1 ~ 2 年)の長期不妊 2 ~3 数年( 1 ~ 2 年)の長期不妊
6以上 永久不妊 3~6 永久不妊(40 歳台)
7以上 永久不妊(20 歳台)

甲状腺

幼小児期の甲状腺は放射線感受性が高く、被ばく後、甲状腺機能低下などの早期障害をきたす場合があります。ヨウ素の特異的集積性から甲状腺が内部被ばくの標的器官であること、また頸部への放射線照射あるいは広島および長崎での原爆による被爆者に、後発性の障害として甲状腺腫瘍の発生率が高いことが報告されています。

水晶体

眼に対する放射線障害として問題となるのは水晶体です。水晶体上皮細胞が放射線被ばくにより変性し、水晶体内にとどまるとレンズの混濁を生じます。この混濁が強くなったものが放射線白内障で、発生までの潜伏期は長く、 6 か月〜数十年、平均2 〜 3 年とされています。

胎児期あるいは成長期にある骨は感受性が高く、成長阻害、壊死、骨粗しょう症、骨腫瘍など後発性の障害が発生します。このうち骨腫瘍は、カルシウム45、ストロンチウム90、リン32、ラジウム226 など骨に集積性を示す放射性同位元素の内部被ばくにより発生する場合が多いとされます。

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